午睡は香を纏いて
どうしよう、どうしたらいいの? 
鞍を握っていた手がぶるぶると震える。何も出来なくて、怖さにただ震えることしかできない。
レジィが傷ついていくのに、その姿を見ることすら、できない。
レジィはこのままだと、あたしを守って死んでしまうだろうに。


「やだ! 嫌だ!」


自分の中の怯えを押しやるように叫んだ。
両瞼をこじ開けるように意識して持ち上げた。そうして目にしたのは、篭手をはめた左腕。
斬りつけられたのだろう、革は裂け、そこから血が流れていた。

咄嗟に手で傷口を押さえようとして、けれどそれは激しい動きにぶれ、いたずらに血を塗り広げただけになってしまった。

どうしよう。
目を開けたくらいじゃ何も出来ない。
あたしは情けないくらいに無力だ。
あたしの存在を認めてくれた人を助けられない。
あの心地よい手に、何も返してあげられない。

左側から、馬首が見えた。
次いで、構えているのであろう、剣の切っ先が現れた。
レジィの持っているものより遥かに大きなそれに、びくりとなる。

右にも、一人いる。レジィはそちらに意識を向けていた。


「レジィ、左も!」


対峙していた相手の腕を斬りつけたレジィが、声に反応して剣を振るった。

けれど大剣が、細身の剣を下からなぎ払うように振り上げられ、それはレジィの剣を真ん中から、折った。

もう、ダメだ。

太陽はその姿を全て現し、朝日が辺りを照らしていた。
その光を浴びて、折れた剣先が空を舞うのを見た。


レジィの手には、小太刀ほどの長さの、刃のこぼれた剣が残るのみだ。



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