大吉男と大凶女
「全っ然気付かなかった」
「まぁ吉野くんあのお婆ちゃんと色々やってたからね」

恭子は笑いながら言う。

「見てたなら助けろよ……」
「いやいや、吉野くんてばラッキーよ、うん」

と、先程とは違い、笑いを押し殺すような表情に変わった。

「どういう意味で?」
「だってお婆ちゃんからお金貰ってなかった?」
「あぁ、これ……ね」

握っていた五百円玉を見せた。いささか手が汗ばんでいるのに今さら気付いた。

「あのお婆ちゃんね、ああいう人らしいの」
「え?」

恭子が手の平の五百円玉を手に取った。俺は手の平をジーパンで拭く。

「で、どういうこと?」

拭いた手の平を恭子に向けると、落とさないように、と左手を添えてゆっくりと五百円玉を戻した。

「あのお婆ちゃんね、駅の近所に住んでて、それでね、独り暮らしなんだって。それで話相手とか探すように電車に乗ったりするんだってさ。車掌さんが言ってたよ」

そう長々と説明してくれた。

「それとラッキーなのは何の関係が?」

俺は五百円玉をポケットに入れながら聞いた。

「気にいった人にはお金をあげるんだってさ」

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