大吉男と大凶女
「あれ?晴紀くんから聞いてない?」

恭子は俺に聞き返した。俺はキョトンとした顔で恭子を見下ろした。

「その様子だと何も聞いてないね」

フフッと軽く笑いながら口に手をやった。すると恭子はおもむろに左手で敬礼のポーズをとると

「今日一日お供をさせて頂きます佳彩恭子と申します!!よろしくね」

と満面の笑顔で言った。殺人的スマイルだった。この笑顔で何人の人がやられたのだろうかと一瞬考えた。

じゃないじゃない。顔を左右に思い切り振って正しい思考回路に切り替えた。

「で、良ければ事の経緯を俺に説明してくれないか……?あ、ちなみに敬礼は右手ね」
「えっ、そーなのっ!?」

慌てて左手と右手を入れ替えた。俺は携帯を見る。気が付けばもう約束の時間だ。

「えっとー……」
「ごめん、ちょっと待って」

恭子が俺の質問に答えてくれようとしたのだが、それを遮り晴紀へと電話を掛けた。

恭子がいぶかしげにこちらを見てくるので、俺は駅に掲げられている大きな時計を指さすと、恭子は納得したように視線を俺から逃がした。

長いコール音が続き、しまいには晴紀は出ずに留守電に繋がってしまった。
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