黒き藥師と久遠の花【完】
「――姉さんのほうが大変だったんじゃないの? 髪と瞳の色も変わって、名前も違うし……何があったの?」
いずみは小さく息をつくと、遠い目をして虚空を見つめた。
「貴女と別れた後、私は里に戻ったわ。その時に捕らえられて、バルディグに連れて行かれたの……イヴァン様の前の王様が、不老不死を叶えるために『久遠の花』を求めていたのよ。ただの伝説なのに、それを真に受けていたの」
そっと睫毛を伏せ、いずみが己の髪を撫でた。
「他国に不老不死を奪われぬよう、先王は私の存在を隠したわ。城の一室に幽閉されて、髪や瞳は薬で変えられて、エレーナという名前を与えられて……密かに不老不死の薬を作らされ続けたわ。イヴァン様が玉座につくまでは」
言葉にすれば呆気ないが、少し想像しただけで痛ましく、みなもは顔をしかめる。
「姉さんが、そんな酷い扱いを受けてたなんて……」
「もう終わったことよ。それに私はイヴァン様とナウムに支えられていたから、辛かったけれど、寂しくなかったわ」