黒き藥師と久遠の花【完】
 いずみは柔和に微笑み、ナウムと目を合わせる。
 言葉を交わさなくても、王の臣下と王の妃という関係とは思えないほど、親しげな空気が読み取れた。

 どうしてナウムなんかと仲良くしてるんだ?

 みなもが訝しげな視線を隣に送っていると、いずみが小さく首を傾げた。

「ナウム、もしかしてまだ貴方自身のこと、話していなかったの?」

「言っても信じてもらえなさそうでしたから、ちゃんと証人がいる前で言いたかったんですよ」

 そう言って肩をすくめると、ナウムはみなもに顔を向けた。

「いずみと同じように、オレもここで姿と名前を変えさせられた。本当の名は、水月だ」

 水月……はっきりとは覚えていないが、聞き覚えのある名だ。
 一体いつ聞いたのだろうかとみなもが思案していると、ナウムは苦笑を漏らした。

「『久遠の花』から薬を貰って各地に売りさばいていた行商人が、里を出入りしてただろ? オレはその息子だ。……小さい頃、何度もお前と遊んでいたんだがなあ」

 みなもは必死に小さい頃を思い出し、手がかりとなる記憶を探っていく。

 物心ついた頃から、いずみの後ろをついて回っていた。
 その時に、いずみと同じ年代の子供たちと遊んでいたのは覚えている。
 覚えているが、彼らがどんな顔をしていたのかは分からなかった。

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