黒き藥師と久遠の花【完】
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
長旅で疲れているだろうからと、まだ日が明るい内にみなもはいずみと別れ、ナウムの屋敷へと連れて行かれた。
与えられた客室は白百合の模様が刻まれた調度品で統一されており、屋敷の主とは正反対の清々しさが漂っていた。
夕食はいらないから休ませてくれとナウムに申し出て、みなもは部屋で一人、ベッドで仰向けになる。
飾り棚に置かれた陶器の時計の、チッ、チッ、という音が、静かな部屋に規則正しく響き、やけに耳へ入ってきた。
頭はずっと思考が巡り続けて、目眩を感じてしまう。
やおらと手で額を押さえると、熱が手の平に伝わる。
風邪でもひいた時のような火照りに、みなもは息をついた。
(……これが夢なら、今まで生きてきた中で一番の悪夢だ)
ずっと会いたいと思っていた、大好きな姉。
幼くして『久遠の花』の一員として、人を癒してきた姉。
そんな姉だから、物心ついた頃から尊敬していた。
自分の手が汚れてでも姉を守りたいと思ったから、『守り葉』の道を選んだ。
姉が『久遠の花』の誇りを持ち、苦しむ人々と向き合い続けるのだと、信じて疑わなかった。
何が起きても、それだけは変わらないものだと信じていたのに。
目頭に熱いものがこみ上げてくる。
どうにか深呼吸して熱を目の奥に押し込むと、みなもは天井をぼんやりと見つめた。
長旅で疲れているだろうからと、まだ日が明るい内にみなもはいずみと別れ、ナウムの屋敷へと連れて行かれた。
与えられた客室は白百合の模様が刻まれた調度品で統一されており、屋敷の主とは正反対の清々しさが漂っていた。
夕食はいらないから休ませてくれとナウムに申し出て、みなもは部屋で一人、ベッドで仰向けになる。
飾り棚に置かれた陶器の時計の、チッ、チッ、という音が、静かな部屋に規則正しく響き、やけに耳へ入ってきた。
頭はずっと思考が巡り続けて、目眩を感じてしまう。
やおらと手で額を押さえると、熱が手の平に伝わる。
風邪でもひいた時のような火照りに、みなもは息をついた。
(……これが夢なら、今まで生きてきた中で一番の悪夢だ)
ずっと会いたいと思っていた、大好きな姉。
幼くして『久遠の花』の一員として、人を癒してきた姉。
そんな姉だから、物心ついた頃から尊敬していた。
自分の手が汚れてでも姉を守りたいと思ったから、『守り葉』の道を選んだ。
姉が『久遠の花』の誇りを持ち、苦しむ人々と向き合い続けるのだと、信じて疑わなかった。
何が起きても、それだけは変わらないものだと信じていたのに。
目頭に熱いものがこみ上げてくる。
どうにか深呼吸して熱を目の奥に押し込むと、みなもは天井をぼんやりと見つめた。