黒き藥師と久遠の花【完】
 条件反射で「嫌だ」と言いそうになり、みなもは言葉を呑み込む。
 この男と長く話をするのは苦痛だが、姉たちに何があったのかを知りたい。
 みなもが無言で頷いてみせると、ナウムはニッと口端を上げた。

「分かった……ああ、でも普通に話すだけじゃあ面白くねぇな。ゲームでもやりながら話してやるよ」

「ゲームって、一体なにをするつもりなんだ?」

「チュリックはどうだ? ちょうどこの部屋にあることだしな」

 チュリックは幅広い地域で親しまれている、木製の盤の上で赤色と黒色の駒を戦わせ、相手の領地を奪い合うゲーム。
 みなもにとっては馴染みのあるゲームだった。

 住処にしている村に住む前。行く先々の街で大人たちを相手に、お金を賭けて色々なゲームをしていた時期があった。その中でもチュリックは得意なゲームだ。

 ゲームしながらのほうが、気が紛れてナウムとの会話の苦痛が和らぎそうな気がする。
 それにゲームでナウムを徹底的に叩きのめせば、少し気分が晴れそうだ。

 みなもの素っ気ない「いいよ」という声を合図に、ナウムは立ち上がり、飾り棚からチュリックを持ち出してくる。

 テーブルに置かれた遊技盤と駒は少し色が剥げており、かなり使い込まれているのが見て取れた。

 椅子に座りなおしたナウムは、両腕を膝につけ、前で手を組んだ。

「せっかくのゲームだ。負けたヤツは勝ったヤツの言うことを一つ、何でも聞くっていうのはどうだ?」

 きっとこいつが勝てば、俺を自分のものにしたいと言い出すんだろうな。
 みなもは目を細め、冷ややかな視線を送る。

 こちらの思いに気づいたのか、ナウムは軽く肩をすくめた。

「安心しろ、いきなり押し倒す真似はしねぇよ。だからお前も、オレを殺すっていうのは無しにしてくれ」

「そういうことなら話に乗るよ」

 内心、助かったと安堵しながら、みなもは無表情に頷く。

 殺さなければいいのだ。
 その顔を一発、派手に殴りつけるぐらいなら良いだろう。

 今までチュリックで負けたことはない。
 油断しなければ勝てるとタカをくくって、みなもはチュリックの駒を見つめた。
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