黒き藥師と久遠の花【完】
 言葉を並べて説明されるより、二人の間に流れていた空気を一目見たほうが説得力は大きい。
 きっとここへ来た当初は、ナウムだけがいずみの味方だったのだろう。
 
 いけ好かない男だが、彼が姉の心の支えになっていたのは間違いない。
 みなもは眉間に皺を寄せながら、大きく息をついた。

「意外だよ。お前にも恩を感じる心はあったんだな」

「命を助けてもらったんだ、そりゃあ恩も感じるさ。だが――」

 コト、と黒駒を置いて、ナウムは喉で人の悪い笑いを奏でた。

「――オレは恩人に無償で奉仕するような人間じゃねぇ。見返りを期待してたから、側に居続けたんだ」

「見返り?」

「白状するとな、オレはいずみが欲しかったんだ。心も、体も……イヴァンと会うまでは、結構いい雰囲気だったんだぞ」

 赤駒を摘みながら、みなもは顔を上げてナウムの顔を見た。

「……下手したら、お前のことを義兄さんって呼ぶ羽目になったのか。姉さんがイヴァン様と結ばれて良かったよ」

「言ってくれるなあ。これでもいずみが取られたこと、まだ引きずってんだぜ? だが――」

 ナウムの瞳にぎらついた光が宿る。

「――お前が現れてくれて、やっと踏ん切りをつけることができそうだ」

 不意にみなもの脳裏に、ザガットの宿屋でナウムが口にした言葉を思い出す。
 あの時、惚れていた女に似ていると言っていた。
 手に入れられない姉の面影を、こちらに求めているのだろう。
 
 みなもは赤駒を盤に置くと、わずかに目を細めた。

「俺は姉さんの代用品ってことか。馬鹿馬鹿しい」

「代用品な訳ねぇだろ。いずみの妹で顔立ちが少し似ているぐらいで手を出すほど、オレは無節操じゃない」

 こちらの顔を見つめたまま、ナウムは盤上の黒駒を動かした。

「みなもの顔も勝気な性格もいいが、オレはお前の生き様が一番気に入ってる」

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