黒き藥師と久遠の花【完】

「足掻くのをやめれば、確かに楽になれる。でも、後になって延々と後悔するのは性に合わないんだ。できることがある限り、俺は勝負を投げ出さない」

 ナウムを見ると、まだ続けるのか? と言いたそうに肩をすくめていた。

「頑固だな。まあ、これぐらい抵抗してくれたほうが、オレも楽しめるから良いけどな」

 そう言って、ナウムは悠然と遊技盤を眺めてから黒駒を置く。
 彼の余裕に満ちた態度は憎らしかったが、みなもは不快な感情を押し殺し、チュリックを進めていく。

 何度か駒を動かし合った後、ついに赤駒に置ける場所がなくなった。

 分かった瞬間、みなもの体が強張る。
 が、大きく息を吐いて力を抜くと、椅子の背もたれへ寄りかかった。

「俺の負けだよ。ここまで負けるなんて、生まれて初めてだ」

「オレも今まで相手してきた中で、一番手応えがあったぞ。これだけ粘られたのは初めてだな」

 顎を撫でながらナウムは席を立つ。

「さあ、約束だ。オレの言うことを一つ聞いてもらう」

 こちらを見下ろす彼の目を見た瞬間、みなもの背筋に薄ら寒いものが走る。
 知らない内に汗をかいた手を、ぎゅっと握った。

「……望みは何?」

「なぁに、簡単なことさ。オレが良いと言うまで、そこを動くなよ」

 言うなりナウムはみなもに近づき、椅子の背もたれへ片肘をつく。
 そしてもう片方の手で、みなもの顎を持ち、クイッと上げた。

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