黒き藥師と久遠の花【完】
「おやアンタ、ここら辺じゃあ見かけない黒髪だけど、旅人さんかい?」

 愛想よくみなもは微笑み、頷いてみせる。

「ええ、昨日ここへ着いたばかりなんです。まだ寒いですけど、活気のある街ですね」

「そう言ってくれると嬉しいよ。一昔前は街の中も鬱々としてたんだけど……今の王様は先王様と違って、国のことを思ってあれこれやってくれる。良い時代になったもんだよ」

 女店主は大げさに胸を張りながら、少し遠い目をした。

「先王様は不老不死のことばかり考えて、国のことはおろそかになってたからねえ。でもイヴァン様は違うよ。アタシたちの声を聞いて必要なものを与えてくれるし、先王様の時に他国へ奪われてた土地を取り戻してくれるし」

「そういえば、今、ヴェリシアと戦っている最中でしたね」

「ああ。あの大国相手に土地を奪い返してるっていうんだから凄いもんだ。しかも他の国も相手して、戦いを優位に進めているらしいからね。だからこれだけ景気も良くなってるんだよ」

 微笑を浮かべたまま話を聞きながら、みなもは心の中で眉をひそめる。

 きっと他の国との戦いでも、毒が使われているのだろう。
 姉が作った、解毒の難しい毒を――。

 この国が潤う分だけ毒を受けて苦しむ兵士が大勢いるのだと思うと、胸が痛くなってくる。
 しかし戦いに勝ち続けることで、先王の悪政に苦しんでいたバルディグの民が救われ、希望を持って生きられるようになっていることも事実だ。

 そんなことを何度も考えながら、みなもは女店主と雑談を続けた後、鮮度が高かった薬草を購入してその場を立ち去った。

 他にも気になった店を訪れ、店の主や居合わせた客と言葉を交わし、少しずつバルデイグの様子を探っていく。

 姉を支えて、このままナウムに下るほうがいいのか。
 それとも、姉を止めたほうがいいのか。
 少しでも自分の取る道を判断する材料が欲しかった。
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