黒き藥師と久遠の花【完】
 思わず青年の顔を、まじまじと見つめる。
 しかし、彼は一瞬こちらに目を向けただけで、そのまま市場のほうへと歩いていった。

 青年が人ごみに消えた後、みなもは小さく息をついた。

(……他人の空似か。もしレオニードだったら、俺を放っておかないだろうしね)

 レオニードのことだ、連れ戻しにここへ来ることは十分に考えられる。
 個人的な関係を抜きに考えても、バルディグの特殊な毒を治せるのは自分だけ。そんな人間を敵地に行かせたままにするハズがない。

 ただ、連れ戻しに来る人は、レオニードでなくてもいい。
 もしかしたら黙って姿を消したことに愛想を尽かして、彼は動かないかもしれない。

 見知らぬ他人に彼の面影を見てしまったのは、心のどこかで彼が来てくれるかもしれないと期待しているからだろう。
 ここへ来たら来たで、まだ心の整理がついていない状態で連れ戻される訳にはいかないのに。

(自分勝手だな、俺は……)

 みなもは小首を振ると、再び歩き始める。
 屋敷が近づくにつれ、揺らいだ心は静まっていく。
 そして胸奥のほうへ、表に出てしまった彼への想いを閉じ込めた。
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