黒き藥師と久遠の花【完】
 屋敷に戻り、みなもは正面の玄関から中へ入っていく。
 入った瞬間、壁に寄りかかって待ち構えていたナウムが手を上げた。

「悪かったな、早々に呼び戻しちまって。時間がない、ついてきてくれ」

 ナウムが数歩進むのを見てから、みなもは距離を上げて後ろへついていく。
 が、彼は歩みを遅めて、こちらの隣へ並んだ。

「ちょっと急な客が来てな、お前と話をさせてくれと言われたんだ。気が短いヤツだから、待たせると怖いんだよ」

 肩をすくめながら、ナウムは小声で口早に言ってくる。まるで誰かに聞かれると困るような感じだ。

 昨日、この国で一番偉い人と会ったばかり。
 また立場のある人が来たとしても、昨日以上に驚くことはないだろう。

 みなもがそう高をくくっていると、ナウムは屋敷の中央にある室内の庭園へと向かって行った。

 青々とした芝生に、ほっそりとした幹の木々。花壇には今にも開き始めそうな花のつぼみが、真上から差し込む光を浴びて輝いている。
 中に足を踏み入れ、真っ先にみなもは上を見やる。そこには神々しい鳥が描かれた円形のステンドグラスが、外からの光を取り入れていた。

 こんな爽やかな所もあったのかと思いつつ、みなもは辺りを見渡す。
 少し奥まった右側に生えた木の脇に、青銅の脚を持ったベンチが置かれている。
 そこには黒い軍服を着た男が、足を組み、ベンチに深々と腰かけていた。

 昨日の緊張がみなもの中で一気に蘇り、手に汗が滲んだ。

「お待たせしました、イヴァン様」

 跪いて頭を垂れようとしたナウムを、イヴァンは「そのままでいい」と煩わしそうな声で制する。

「形式だけの挨拶など面倒なだけだ、せめて非公式の場ぐらいは勘弁してくれ。みなも、お前もな」

 恐れ多さで跪きたいところだが、王自らの言葉を断る訳にもいかず、みなもは「はい」と答えるしかなかった。

 こちらの返事を聞いてイヴァンは頷くと、ナウムに目配せをした。

「みなもと二人で話がしたい。お前は席を外してくれ」
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