黒き藥師と久遠の花【完】
「分かりました。では私は中庭に人が入らぬよう、部下と共に見張っています」

 深々と一礼して、ナウムは踵を返して立ち去っていく。

 一人イヴァンと対峙した瞬間、彼の威圧感がみなもに全て向けられる。
 こう考えるのは嫌だったが、ナウムでもいいから、この場に誰かが居て欲しいと願ってしまう。

 緊張を隠せないみなもを見て、イヴァンは小さく吹き出した。

「そう硬くなるな。ここは公ではないんだ、無礼講を許そう。さあ、そんな所に立っていないで隣へ座れ」

 ……マクシム様といい、イヴァン様といい、どこの王様もこんなに気さくなものなんだろうか?

 躊躇しながらも、みなもはぎこちない動きでイヴァンの隣へ腰を下ろす。そして恐る恐る彼に顔を向けた。

 イヴァンはナウムが去ったほうへと目配せすると、鼻で笑った。

「相変わらず白々しいヤツだ。頭を垂れて丁寧な言葉を使いながら、未だに心は俺に屈していないくせに――付き合いは長いが、いけ好かない男だ」

 不意にみなもは、昨日ゲームをしながらナウムから聞いたことを思い出す。

 ナウムにとって、今もいずみは特別な存在だ。
 そんな彼女の隣に居続けるイヴァンを、快く思えるはずがない。
 けれど、いずみと近い距離に居たいがために、イヴァンへかしずいているのだろう。

 自分も好きになれない男だが、報われない想いに少し同情する。
 が、だからと言ってナウムを受け入れることはできない。彼の執着がこちらにも向けられて、正直なところ辟易してしまう。

 みなもがそう思っていると、イヴァンはこちらに目を向けた。

「お前を連れて来た褒美として、ナウムの部下にすることを許可したが……もしアイツの部下が嫌ならば、いつでも俺に言え。また新たな居場所を与えよう」

「ありがとうございます。イヴァン様にそう言って頂けるなら、私も心強いです」

 上辺ではなく、心の底からありがたいと思う。緊張はまだ解けなかったが、それでも薄くみなもの顔に安堵の笑みが浮かぶ。
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