黒き藥師と久遠の花【完】
 イヴァンは小さく頷くと、少しバツが悪そうに目を細めた。

「本来ならば、妃の妹として迎え入れるところだ。だがエレーナ……いや、いずみをバルディグの貴族の娘と偽って俺の妃にしている。妃が東方の異国人だとなれば、面白く思わない者も大勢いるだろう。悪いが、いずみの妹であることは隠し通してくれ」

 いずみがバルディグの王妃だと分かった時点で、そうしなければならないことは察しがついていた。
 これが普段の時でも秘密がバレれは大事になるが、バルディグは今、王が代わって日が浅い。秘密が分かった時の混乱も大きいだろう。

 みなもは頷き返し、真っ直ぐにイヴァンの目を見つめる。

「分かりました。誰に認められなくとも、私たちが姉妹であるという事実は変わりません。私はそれだけで十分です」

「そう言ってくれるとありがたい。妹としては迎えられぬが、いずみの側近として迎え入れよう。ようやく会えた家族だ、できる限り近くに居たいだろ? 王の名と誇りにかけて約束する」

 公の場ではなくとも、王自らそう言ってもらえることなど普通は有り得ない。
 破格の扱いを受けているのだと、否が応にも骨身にしみる。

 そんなイヴァンの譲歩に感謝する思いの裏側で、みなもの中に重く苦々しいものが広がった。

 浮かない顔のみなもに気づき、イヴァンは首を傾げた。

「いずみの側近では不服か?」

 みなもは即座に首を振り、言いにくそうに睫毛を伏せる。

「……失礼を承知でお尋ねします。イヴァン様は、このまま姉さんに毒を作らせ続けるのですか?」

 こちらの問いかけに、イヴァンの耳がピクリと動く。
 僅かに浮かんでいた申し訳なさそうな表情が消え、厳しい王の顔に戻る。

「俺個人としては、妃に毒を作らせたくはない。だが、今はその毒がバルディグの戦況に大きく影響している。国を統べる者として、ここで止めさせる訳にはいかぬ。しかし――」

 急にイヴァンの手が上がり、みなもの肩を力強く掴んだ。

「みなもよ、お前がバルディグのために尽力し続ける覚悟を見せてくれるならば、いずみに毒は作らせぬ。その代わり、お前に毒を作ってもらいたい」
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