黒き藥師と久遠の花【完】
 思わずみなもは息を呑み、イヴァンと目を合わせる。

 これを言いたいがために、わざわざ王自ら出向いてきたのだろうか?
 高まる緊張に合わせて、動悸が急かしてくる。しかし、安易なことは言えないと、みなもは慎重に言葉を選ぶ。

「覚悟を見せるには、どうすれば良いのですか?」

「難しく考えずとも、与えられる任務をこなしてくれればいい。……誰でも口先だけならどうとでも言えるが、実際に己の手を汚すとなれば、戸惑い、動けなくなる者も多い。いざという時に動けぬ者に、国の機密を任せる訳にはいかんからな。だからみなもよ、お前も行動で覚悟を示してくれ」

 言葉ではなく、行動が全て。
 単純な答えではあるが、単純だからこそ誤魔化しがきかない。

 あれこれ言葉を並べる程に、こちらの言葉が軽くなってしまう。
 色々と質問したいことはあったが、みなもは「分かりました」と一言告げるだけにとどめた。

 イヴァンはみなもの肩から手を離すと、両腕を大腿に乗せ、長息を吐き出した。

「……重い話はこれぐらいにしよう。今日はただ、みなもと話をしたいから来たのだ。ぜひ聞いてみたいことがあってな」

「私に聞きたいこと、ですか?」

 みなもが小首を傾げると、イヴァンは少し照れくさそうに頭を掻いた。

「いずみの好きなものを教えてくれ。俺が尋ねても、毎度『イヴァン様から頂けるもなら、何でも嬉しいです』と遠慮して教えてくれんのだ」

 聞いた瞬間、みなもは目を丸くする。そして次第に表情を和らげた。

(イヴァン様は姉さんのこと、本当に愛していらっしゃるんだな)

 いずみの辛い過去の中にも明るく温かなものがあったのだと思うと、嬉しくなってくる。

 そして同時に、胸の内側から刺すような痛みが走る。
 
 姉の幸せを優先するためには、自分の想いを抑え込まなくてはいけない。
 今まで見てきたことも、感じたことも、見て見ぬふりをして。

 イヴァンといずみの話で談笑しながらも、みなもの靄がかっていた心に、より淀んだものが広がっていた。
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