黒き藥師と久遠の花【完】
(ナウム……!?)

 彼と目を合わせた瞬間、みなもの体に人の重みがのしかかる。
 押し倒されているのだと気づき、全身から血の気が引いた。

 早く逃れなければと、みなもは身をよじろうとする。
 けれど体は動かず、ただナウムを見上げることしかできなかった。

 ゆっくりとナウムの顔が近づき、目と鼻の先で止まる。

『いい加減に諦めて、オレのものになれよ。大好きな姉さんと一緒にいたいだろ? なあに、何も考えずにオレの言うことを聞けば良いんだ。簡単だろ?』

 甘い声で一言を発する度に、ナウムの生温かな吐息が顔にかかる。
 咄嗟に口を開こうとしたが、みなもの唇は硬く閉じたままで、声を上げることすらできなかった。

(これは……夢、なのか? でも、こんな生々しい夢なんて――)

『そう、夢だ。お前に望まれて、オレは今ここにいる』

 こちらが考えたことにナウムが答える。
 確かにこれは夢なのだろうと分かった途端、みなもの頭に冷静さが戻ってくる。

(お前の夢なんて最悪だよ。俺がお前を望んでいるって? ……ああ確かにそうかもね。お前を殴りたくてしょうがない)

『クク……本当にそうなら、今頃オレの顔に拳がめり込んでるだろうな。だが――』

 顔だけしか見えなかったナウムに、上半身がぼんやりと現れる。
 そしてゆっくり手を伸ばし、人差し指でみなもの唇をなぞった。

『どうしてオレから逃げようとしないんだ? 本当はオレにこうされる事を望んでいるように見えるぜ』

 血の気が引いて冷めていたみなもの体に、羞恥とも、怒りとも取れる熱が駆け巡った。

(馬鹿を言うな! 体が動かなくて逃げられないんだ。動けばさっさと逃げ出している)

『そこまで言うなら試してやろうか? お前がどれだけオレを求めているのか、体で教えてやるよ』

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