黒き藥師と久遠の花【完】
 ナウムは口端をニィィと上げ、みなもの首筋を口づけた。
 逃げられない現状に耐えられず、咄嗟にみなもは目をきつく閉じる。

 顔が見えなくなった分、余計にナウムの息遣いや温もりが伝わってきてしまう。
 
(嫌だ……お前にだけは、触られたくない)

『じゃあレオニードってヤツなら、こんな風にお前へ触れてもいいんだな?』

 問われた瞬間、初めてレオニードと一夜を共にした時のことを思い出す。
 
 互いの吐息が、温もりが混じり合い、体すら溶けて繋がっていくような感覚。
 もっと彼に触れたい。
 もっと彼を知りたい。
 もっと彼と一つになりたい。

 あの時ほど、激しく人の温もりを渇望したことはなかった。
 許されるなら、あの時の中で生き続けたかった。

 心は今も彼を求めている。
 けれど、手を伸ばしても彼はいない。
 頭がおかしくなりそうなほどの喜びを思い出しながら、みなもは絶望を噛み締める。

『落ち込むなよ。オレはアイツになれねぇが、お前を慰めることならできる。ほら、オレも結構温かくないか?』

 みなもの首筋を舌でなぞりながら、ナウムが首裏と背中に腕を滑りこませ、優しく抱擁する。

 相手がナウムだと分かっているのに、目を閉じているとレオニードの抱擁と重なってしまう。

 温かくて、心地良くて、頭がぼうっとしてくるような――。

『欲しい相手が近くにいなくて、寂しくて体が疼いてんだろ? お前の気が済むまでオレが相手をしてやるよ』

 ナウムの片手が腰まで下り、もう片方の手はみなもの胸の上へ乗せられる。
 服のボタンを外され、直接肌を愛撫されていく。

 拒まなければ。
 怒りと嫌悪よりも、快楽に身を委ねたいと思う気持ちが強くなる前に。

 ナウムを受け入れてしまえば、本当に戻れなくなるのに――。
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