黒き藥師と久遠の花【完】
 みなもは身支度を整えて朝食を済ませると、ナウムの書斎の扉を叩いた。
 こちらが口を開く前に、中から「みなも、遠慮せずに入れよ」という声が聞こえてくる。

 まだ声も聞いていないのに、どうして誰が来たのかが分かるんだ? 恐らく廊下からの足音や気配を読んでいんだろうけど……。

 ナウムのこういう資質は、悔しいが流石だと思ってしまう。
 だからこそ気は許せないと身構えながら、みなもは「失礼するよ」と扉を開けて部屋の中へ入った。

 正面に大きな窓と机が臨んでいたが、そこにナウムの姿はなかった。
 みなもが辺りを見渡すと、彼は隅に置かれた本棚の前で、分厚い装丁の本を読んでいた。

 本を閉じて顔をこちらに向けると、ナウムは目を細めて微笑んできた。

「よう。お前からオレの所に来るなんて珍しいな。どうかしたのか?」

 これから伝えることを察しているのか、ナウムの顔がやけに上機嫌だ。
 先読みされてばかりで、甚だ面白くない。
 思わずムッとしそうになるが、みなもは我慢して、己の顔から感情を消した。

「……やっと覚悟が決まったから、ここへ来たんだ」

 次の一言を口にすれば、もう後には引けない。
 軽く目を閉じて大きく息を吸い込み、先の見えない闇に飛び込む勇気を蓄える。
 
 瞼を開けてナウムを見据えてから、みなもはその場に跪いた。

「姉さん……いえ、エレーナ様をお守りするために、私を貴方の部下に加えて下さい。貴方がエレーナ様に忠誠を誓い続ける限り、私はこの『守り葉』の力を捧げましょう」

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