黒き藥師と久遠の花【完】
 ナウムがニヤニヤしながら立ち上がり、こちらの体を舐め回すように見つめてきた。

「気づいてるのか? オレに少し触れられるだけで、その体は面白いくらいに熱くなってくれる。いつか耐えられなくなって、お前からオレを求めるようになるかもな」

 ドクン、と鼓動が大きく跳ねる。

 まさか夢のことを知っているのか?
 そんなはずはない。
 夢は夢。独り言ですら口にしたことのない内容を、ナウムが知るはずもない。

 少し落ち着いて考えれば、ナウムには何度も触られている。
 その都度、頭に血が上っていたのだ。体も熱くなって当然だ。

 みなもは呆れたように肩をすくめ、「ありえないよ」と踵を返そうとした。
 が、動きを止めて、顔だけをナウムのほうへと向けた。

「ナウム……先日ここまで足を運んで下さったイヴァン様に、お礼の手紙をお渡ししたいんだ。だから失礼にならないような便箋と封筒を、いくつか譲って欲しい」

「律儀なヤツだな。あの人はそんな物がなくても、まったく気にしない人だが……まあお前が渡したいって言うなら譲ってもいいぜ。後で侍女にお前の部屋まで運ばせる」

「ありがとう。じゃあ、俺は失礼する――」

 今度こそ立ち去ろうとした時。
 みなもの腕が強く掴まれ、後ろへ引っ張られる。

 耳元で、一段と低くなった声が囁いた。

「一つ尋ねるが、ヴェリシアの男に書いて送る気じゃないだろうな?」

 つられるように、みなもの声も低くなる。

「……俺はあの人を裏切って姉さんを選んだんだ。書ける訳がないだろ」

「お前は目的のために、本心も性別すらも偽ってきた人間だ。無条件にお前を信用するほど、オレはお人好しじゃないぜ」

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