黒き藥師と久遠の花【完】
 ナウムが用意した服がずらりと並んでいる。
 ここへ来た当初は、ナウム好みの露出が多いドレスばかりあった。
 が、「俺、男物しか着ないよ」と言ったら、残念そうに中の服を男物と変えてくれた。
 それでもドレスを着せることを諦めていないらしく、今も隅に数着だけ仕舞われている。

 ドレスに目を向けることなく、みなもは今まで着続けていた服の襟に手をかける。
 そして首飾りを外すと、洋服掛けにぶら下げた。

(ごめん、ここで待っていて。用事が終わったら、また戻ってくるから)

 手を離すと、今度は別の服に手をかける。
 淡い薄茶色の生地で作られた男物の服。生地の色が地味な分、袖や襟などに施された刺繍に力が入っている。

 その服に袖を通してズボンを履き替えると、みなもは衣装棚の隣りに飾られた鏡に己を映した。

 似合わないことはないと思う。
 ただ、苦労知らずな貴族の青年に見えてしまい、湧き出る違和感に首を傾げる。

(何だか不相応な格好だけど、バルディグの王妃様に会うんだから、失礼のない格好をしないとね)

 部下になると伝えた翌日、ナウムがいずみに打診して、この日に会う機会を設けてくれた。
 城では落ち着いて話せないだろうからと、いずみをナウムの屋敷に招待する形を取って――。

(王も王妃もここに招くことができる力を持っているんだな。あんな男なのに)

 いずみと会える日を教えてくれた時の、得意げに笑ったナウムの顔が脳裏に浮かぶ。
 それだけで苛立ちがこみ上げ、みなもは顔をしかめた。

(……まあいい。約束を守ってくれたのは事実だ。心から感謝するよ、ナウム)

 鏡に背を向けると、みなもは部屋の隅にある机の上に視線を送る。

 そこには二通、赤い蝋で封をした手紙が置かれていた。
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