黒き藥師と久遠の花【完】
みなもは襟の裏を探り、隠していた小さな紙の包みを取り出した。
「姉さん……犠牲になったみんなのことを思うなら、この薬を飲んで欲しい」
包みの中には、記憶を消すための薬が入っている。
飲めば今までのことをきれいに忘れてしまう。
己が『久遠の花』であることも、幼い頃の思い出も、自分たちが姉妹だということも――。
いずみは視線を落とし、肩を震わせる。
すうっ、と大きく息を吸い込むと、彼女は首を横に振った。
「……ダメよ。今、私たちが毒を手放せば、また昔のように国のみんなが苦しむ世の中に戻ってしまうわ」
「そのために他の国の人たちを苦しめ続けてもいいの?」
こちらの言葉を聞き、いずみの体が固まる。
が、すぐ弾けたように顔を上げ、みなもへ強い眼差しを向けた。
「私はもう、この国の人たちが苦しむ顔を、絶望する顔を見たくないわ」
姉さんは軽はずみな考えで、毒を作る人じゃない。
目に映る苦しむ人々を放っておけなかったことぐらい察しがついている。
けれど……。
みなもは怯まずに、いずみの視線を受け止める。
「俺はこの国が酷かった時を知らない。でも、姉さんは知っているの? 傷を受けた兵士たちが、一つの部屋で大勢が毒に苦しみ、喘ぐ姿を……」
今思い出すだけでも、胸から歯がゆい思いが湧き出てくる。
せっかく助けた人間を、再び命を落とすかもしれない戦場へ向かわせなければいけない。
生きて欲しいから治療したのだ。延々と苦しみを与えるために治療した訳ではない。