黒き藥師と久遠の花【完】
    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 間もなく満ちる月が真上で輝く頃。変装を解いたレオニードと浪司は気配を殺し、ナウムの屋敷を囲むレンガ塀を乗り越え、敷地内へと足を踏み入れた。

 屋敷からの明かりはなく、人が起きている気配はない。
 正門前には警備をしている者はいたが、突っ立ったまま居眠りしている。
 瞳の色が元に戻った分、心なしかいつもより辺りが鮮明に見えた。
 
 意外と手薄な警備に、レオニードが少し肩透かしを食らった気分になっていると、浪司が茶目っ気たっぷりに笑った。

「屋敷の人間に眠り薬でも使ってくれって、みなもに頼んでおいたんだ。多分起きないだろうが、念のために物音は立てないでくれ」

 つくづく浪司の段取りの良さには感心してしまう。
 この調子なら事が簡単に運びそうだと思う反面、こんなに呆気なく目的を果たせるなんて、話が出来過ぎている気がしてならない。
 みなもの力を考えれば、これぐらい造作も無いことかもしれないが。

 慎重に辺りの気配を伺うレオニードとは違い、浪司はいつもと変わらない調子で屋敷へ近づいていく。

 そして使用人の出入口まで行くと、懐から針金を取り出して鍵穴に挿す。
 カチャカチャと動かしたかと思えば、あっさりと扉は開いてしまった。

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