黒き藥師と久遠の花【完】
「よっしゃ、これぐらい楽勝だぜ……って、どうしたんだレオニード? そんな怖い顔でワシを睨むなよ」

 どう見ても初めて鍵穴をいじる手つきではない。
 明らかに何度も繰り返し、勝手を掴んでしまっている。あまりに無駄がない。

 浪司が盗みを働くような人間ではないことぐらい、重々承知している。
 頭で分かっていても、心の中は複雑だった。

「……くれぐれもその力を悪事に使わないでくれ」

「そんなつまらん真似はせんよ。取っ捕まって、美味いメシが食えなくなるのはごめんだからな」

 ニッと歯を見せると、浪司はゆっくりと扉を開けた。

 中は暗く、手を伸ばした先ですらよく見えない。
 ロウソクの明かりでも無ければ、行き先を見失ってしまいそうだ。
 
 不意に浪司は右腕の袖をたくし上げる。
 すると、太くたくましい腕が、満遍なくぼんやりと光っていた。

「浪司、その腕は?」

「ここへ来る前に、蛍光蛋白石の粉を振りかけておいたんだ。ワシは夜目がきくから、明かりがなくても先へ進める。お前さんはこれを目印にして、ついてきてくれ」

 何から何まで、浪司の力に頼りっぱなしだ。
 無事にヴェリシアへ戻った時には、国の銘酒を彼に贈ろう。
 浪司の背中を追いながら、レオニードは口端を軽く上げた。
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