黒き藥師と久遠の花【完】
 駆け出したい気持ちを抑えながら中を進んでいくと、月明かりに照らされた室内庭園が見えてくる。
 昼間とは違い、月の青白い光を受けた草花は、しとやかな空気をまとう。

 そして庭園の中央には、中背の人影が真上を仰いでいた。

 まだ起きている人がいるのかとレオニードは警戒するが、浪司は平然と庭園へ進んでいく。
 あそこにいるのは誰か――浪司の態度を見ればすぐに答えは出た。

 細い廊下を抜けて開けた場所へ出ると、レオニードは人影へ駆け寄る。
 こちらに気づき、その人は振り向いて微笑みを浮かべた。
 
 着ているのは、いつも彼女が身につけていた男物の服。
 月の光を浴びた短い黒髪は艶やかに輝き、夜の闇よりも色濃い瞳を潤ませていた。

「みなも……!」

 レオニードが名前を呼ぶと、彼女は小走りにこちらへ近づき、胸へしがみついてきた。

 ギュッと服を強く握ってくる感触が、愛おしくて仕方がない。
 レオニードは己の中へ閉じ込めんばかりに、彼女を抱き締めた。

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