黒き藥師と久遠の花【完】
 腕の中でみなもの肩が縮まり、体が小刻みに震える。

「貴方がここまで来てくれるなんて思わなかった……何も言わずに去ったから、もう俺に愛想をつかしているんじゃないかって……」

「そんなことある訳ないだろ。君を一人にしないと約束したのに……本当に会えてよかった」

 彼女から伝わってくる体温と息遣いをもっと感じたい。
 レオニードの頭がそんな思いに支配されていると、

「ゴホン……ワシもいることを忘れんなよ」

 浪司が隣から咳をして、二人の注意を引く。
 顔を上げたみなもは、苦笑しながら「ごめん」と肩をすくめた。

「浪司にも会えて嬉しいよ。こんな所まで来るなんて、お人好しにも程があるだろ」

 半ば呆れたように浪司は「いつものお前さんで良かったぞ」と笑い返す。
 しかし次の瞬間、いつになく真面目な顔でみなもを見据える。

「そりゃあ可愛い弟分のためだ、と言いたいところだが、ワシは目的があってここまで来た。どうしてもお前さんから聞かなきゃいかんことがあるんだ」

「それは手紙にも書いてあったけど、俺に聞きたいことって?」

「まずはワシらについて来てくれ。多分話は長くなると思う……ここで話していたら、寝ているヤツらを起こしちまうかもしれんからな」

 再会の喜びに浸りたいところだが、今はそんな悠長なことは言ってられない。
 レオニードはみなもから腕を離すと、目配せして移動するよう促す。
 こちらの合図を受けて、みなもは「分かった」と小さく頷いた。

 元来た道を戻ろうと、レオニードと浪司が行く先に顔を向ける。と、

 ――シュッ。
 何かを引き抜く音がした。
 その直後、レオニードの左腕に焼きつくような鋭い痛みが走った。
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