黒き藥師と久遠の花【完】

「コイツはオレのものになったんだ。その証拠にオレの言うことを何でも聞いてくれる。なあ、みなも?」

 とろん、とした目でみなもはナウムを見ると、抑揚のない声で「はい、ナウム様」と答える。
 視線を合わすとナウムはみなもの肩を抱き寄せ、耳元で囁きかけた。

「お前がどれだけオレを愛しているのか、昔の男に見せてやれよ」 

 鈍い動きでみなもは頷くと、ナウムの首に腕を回し、自分から口付ける。
 薄目を開けて、うっとりした表情を見せる彼女から、嫌悪の色はまったくなかった。

 ナウムは横目でレオニードを見ながら、みなもの腰に手を置き、ぐっと己の方へと引き寄せる。
 そこからゆっくり背中を伝い、みなもの首筋に指を這わしていくと、次第に頬は紅潮していく。
 一度顔を話して吐息を漏らした後、彼女からさらに深く口付ける。

 耐えられず、レオニードは二人から視線を逸らす。
 見ているだけで動悸が強まり、痛みで吐き気すらした。

 これが現実なのか、夢なのか、分からなくなってくる。
 半ばレオニードが放心状態になっていると……ぽんっ、と大きな手が肩を叩いてきた。

「あれはみなもの本心じゃない。あの言動に虚ろな目……恐らくナウムの言うことを聞くように、暗示をかけられている」

 浪司の声に気づき、ナウムが顔を上げた。

「獣みたいなツラして、意外と物知りなんだな。まあ、どっちにしても変わらねぇけどな……今のみなもは、オレに従うことが全てだ。どんなことでもしてくれるぜ? オレが望むままに交わることも、オレのために手を汚すことも厭わない」
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