黒き藥師と久遠の花【完】
ヒュッ。
鞘から抜かれた剣が、躊躇いなく空を切る。
間一髪、みなもは後ろへ飛び退き、かろうじて刃から逃れることができた。
冷や汗が一筋、頬へ流れる。
もし避けなければ、間違いなく斬られていた。
この男は本気で殺すつもりだった。
互いに睨み合っていると、ナウムがククッと笑い声を漏らした。
「前々からそんな気はしてたが……いつから自我を取り戻していたんだ?」
みなもは腰の短剣を抜きながら、冷ややかな視線をナウムにぶつける。
「さてね。お前にだけは教えられないよ」
「まあ、いつだって良いんだけどな。少なくとも、意識を保ちながらオレに抱かれ続けていたってことだからなあ」
ナウムは肩をすくめると、みなもの全身を舐め回すように見つめてきた。
「気づいていたか? お前がオレの体を受け入れている時、たまに泣きそうな顔していたってことは……結構そそられたぞ? だから、ひょっとすると元に戻っているんじゃねぇかって思っていたんだ」
思い出したくもない記憶が、一瞬にしてみなもの頭を駆け抜ける。
途端に羞恥と怒りで体が熱くなり、意識が飛びそうになる。
今、我を忘れてしまえば勝ち目はなくなる。そう自分に言い聞かせ、努めて落ち着いた声を出した。
「気づいていたのに、放っておいてくれたのか」
「ああ。確信がなかったし、オレの欲目でそう見えていたとも思っていたからな。確かめられるまで、いずみに会わせなければ問題ないと読んでいたが――」
ナウムは顔の笑みを消し、忌々しげに舌打ちする。
「お前以外の人間が毒を流したのは計算外だった。しかも城全体に、人の命を奪わない程度に毒を行き渡らせる術も度胸もあるヤツなんざ……やっぱりあのオヤジが李湟だったか」
一族の血を引かないナウムが、どうして浪司の正体に気づいているんだ?
気になるところだが、ナウムが真実を語るとは到底思えない。
それに自分も余計な真実を語るつもりはなかった。
鞘から抜かれた剣が、躊躇いなく空を切る。
間一髪、みなもは後ろへ飛び退き、かろうじて刃から逃れることができた。
冷や汗が一筋、頬へ流れる。
もし避けなければ、間違いなく斬られていた。
この男は本気で殺すつもりだった。
互いに睨み合っていると、ナウムがククッと笑い声を漏らした。
「前々からそんな気はしてたが……いつから自我を取り戻していたんだ?」
みなもは腰の短剣を抜きながら、冷ややかな視線をナウムにぶつける。
「さてね。お前にだけは教えられないよ」
「まあ、いつだって良いんだけどな。少なくとも、意識を保ちながらオレに抱かれ続けていたってことだからなあ」
ナウムは肩をすくめると、みなもの全身を舐め回すように見つめてきた。
「気づいていたか? お前がオレの体を受け入れている時、たまに泣きそうな顔していたってことは……結構そそられたぞ? だから、ひょっとすると元に戻っているんじゃねぇかって思っていたんだ」
思い出したくもない記憶が、一瞬にしてみなもの頭を駆け抜ける。
途端に羞恥と怒りで体が熱くなり、意識が飛びそうになる。
今、我を忘れてしまえば勝ち目はなくなる。そう自分に言い聞かせ、努めて落ち着いた声を出した。
「気づいていたのに、放っておいてくれたのか」
「ああ。確信がなかったし、オレの欲目でそう見えていたとも思っていたからな。確かめられるまで、いずみに会わせなければ問題ないと読んでいたが――」
ナウムは顔の笑みを消し、忌々しげに舌打ちする。
「お前以外の人間が毒を流したのは計算外だった。しかも城全体に、人の命を奪わない程度に毒を行き渡らせる術も度胸もあるヤツなんざ……やっぱりあのオヤジが李湟だったか」
一族の血を引かないナウムが、どうして浪司の正体に気づいているんだ?
気になるところだが、ナウムが真実を語るとは到底思えない。
それに自分も余計な真実を語るつもりはなかった。