黒き藥師と久遠の花【完】
 まともに相手をしていられるかと言わんばかりに、みなもは大きく息をついた。

「お前の想像に任せるよ。これ以上、時間を無駄にしたくないからね」

 ここで足止めを食らっている内に、いずみが逃げてしまうかもしれない。
 もし城から脱出して仕切り直しても、こちらの手の内がバレてしまった以上、いずみを中心にして毒の対策を練られてしまう。

 今、姉の元へ行かなければ、彼女を止めることができなくなる。

 みなもは短剣を正面に構えると、足に力を貯めた。

「ナウム、奥へ進ませてもらうぞ……お前なんかに邪魔されてたまるか!」

 全力で床を蹴り、みなもはナウムに向かっていく。
 
 ナウムとまともに戦えば、力でねじ伏せられるだけ。
 素早く懐に入り込んで勝負を挑まなければ、勝てる相手ではなかった。

 急な動きに戸惑うことなく、ナウムはわずかに腕を引き、こちらに刃を向ける。

「行かせねぇよ。いずみを本気で傷つける気なら、残念だがここで始末してやる」

 口元には笑みが浮かんでいるが、ほの暗い瞳は無機質に前を見据えていた。

 みなもが間近に迫ったのを見計らい、ナウムが剣を振るう。 

 咄嗟にみなもは肩を縮めて刃を避ける。
 そして間を開けずに、ナウムの脇腹を貫こうとした。

 こちらの動きを読んでいたかのように、ナウムは小さな動きで身を捻る。
 切っ先は彼の服をかすったが、体には届かず、服に穴を空けることしかできなかった。

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