黒き藥師と久遠の花【完】
 確実にとらえた――そう考えたのも束の間、ナウムが背中を反らし、うまく靴の刃をかわした。

 空振りに終わったが、ナウムの手には武器はなく、体勢が崩れかけている。
 この好機を見逃すまいと、みなもは目を鋭くさせた。

(いくら毒の耐性があっても、直接毒が体内に入ればただでは済まない。この剣でかすり傷でもつければ俺の勝ちだ)

 みなもは剣を持ち直し、ナウムの胸へ狙いを定める。

 今までのことが脳裏に浮かび、身に貯め続けた怒りが煽られる。
 かすり傷だけで満足できる訳がない。
 この刃を、深く、深く、この男の体に打ち込みたい。

 体の奥から湧き出る黒々としたものが、自分の身を蝕んでいくのを感じた。

(お前だけは絶対に許さない。いくら水月だったとしても――)

 何度も抱かれ、その合間に昔の他愛のない話を聞かされる内に思い出した。
 晴れた日の草っ原の中、水月の周りをはしゃいで走り回っていた自分を。

 面倒そうにしながら、いつも遊んでくれる水月が好きだった。
 もし隠れ里が襲われなければ、今頃は彼と結ばれ、ずっと一緒にいられると喜んでいたかもしれない。

 だからこそ余計に怒りが増した。
 隠れ里の大切な思い出を、この男が踏みにじって汚したから。
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