黒き藥師と久遠の花【完】
 避けきれないと悟ったのか、ナウムは即座に笑みを消し、返り討ちにしようと前へ踏み込む。

 ギィンッ!
 刃が力強く交わり、一際大きな音がみなもの耳を揺らす。
 わずかに痛みを覚えながらも、戦う二人から目を逸らさず、ゆっくり後退して距離を取っていく。
 
 ナウムの顔を見ると、レオニードの気迫に押され、すでに余裕は消えていた。

 みなもは柱に身を隠し、静かに息を整えつつ気配を消していく。
 
 二度、三度と剣がぶつりかり、どちらも負けじと押し合い始める。
 それを見計らい、みなもは部屋の奥へと走り出した。

「チッ、先には行かせねぇぞ」

 ナウムはレオニードに蹴りを入れて離れると、こちらへ振り向き、近づこうとする。

 しかしレオニードが素早く動き、二人の間を隔てるように立ち塞がる。

「なに……!」

 動揺を見せたナウムへ、レオニードは容赦なく斬りつけた。
 再び押し合いとなったが、力は均衡しているらしく、二人の足はその場から離れない。

「耐毒の薬を使っているようだが、少しは効いているようだな。前に会った時より動きが鈍い」

「チッ、まだ本気を出していないだけだ。たかが一兵卒に負ける訳にはいかないんでな」

 互いに殺気を隠さず、歯を食いしばりながら対峙する。

 これ以上レオニードを見ていたら、先へ行けなくなってしまう。
 二人を一瞥して背を向けると、みなもは全力で足を動かした。
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