黒き藥師と久遠の花【完】
みなもの足音が遠ざかっていくのを確かめた後、レオニードはさらにナウムへ集中する。
この男の顔を見るだけでも、胸からとめどもなく湧き出る怒りが全身を埋め尽くしていく。
しかし頭に血が上ってしまえば隙ができてしまう。確実に勝つために、努めて冷静になろうとする。
そんな自制心をあざ笑うかのように、ナウムがこちらの瞳を覗き込んできた。
「淡白そうなツラして、随分と独占欲が強いんだな。そんなにみなもを寝取ったオレが憎いか?」
挑発するために言っているのだと分かっていても、頭が熱くなってくる。
レオニードはきつく目を細め、歯ぎしりした。
「当然だ……卑怯な手を使われながら辱められて、どれだけ彼女が傷ついたと思っているんだ」
フンッ、とナウムが鼻で笑う。
「意思がなかったのは最初の頃だけ……演技ができるほど経験もないだろうに、その後のほうが反応は良かったぞ?」
「黙れ!」
レオニードの腕に力が更に入り、二つの刃がナウムの鼻先まで近づく。
それでもナウムは苦しげな顔は見せず、むしろこの状況を楽しんでいるように口端を上げた。
「お前の怒りはよーく分かるぞ。オレからすれば、前々から狙っていた獲物をお前に奪われたんだからな」
不意にナウムが真顔になる。
道化の空気を無くした彼は、今までの言動からは想像がつかないほど真摯な印象を受けた。