黒き藥師と久遠の花【完】
「お前がいなくても、最初は憎まれただろうな。だが、昔のオレたちを思い出せば、みなもからオレを求めていたハズ。……アイツにとって初恋の相手だったからなあ」

 ナウムの正体は浪司やみなもから聞いている。
 水月という名の、隠れ里に出入りしていた商人の息子。

 また適当なことを言っている、と思いたいのに思えない。
 自分の知らない過去を共有している――その見えない部分が戸惑いを作っていた。

 突然ナウムの剣が重くなり、こちらの剣を弾いた。

「ずっとオレは我慢し続けたんだ。そろそろ報われても良いと思わねぇか?」

 刹那、ナウムはレオニードへ更に近づき、懐へ入ってくる。

「だから、お前はもう消えろよ」

 ナウムが頭部を貫こうと、下から剣を突き上げてきた。
 咄嗟にレオニードは身を捻り、避けながら剣を振るって反撃に出る。

 激しく刃をぶつける度に互いの熱気が混ざり合い、辺りにこもっていくように感じる。
 息苦しさを覚えながら、レオニードは攻撃の手を休めずにナウムの様子を伺う。

 剣から伝わってくる力に翳りはない。が、顔色は見るからに悪い。
 耐毒の薬を飲んでいるとはいえ、ゆっくりながらでも毒は進行しているはず。

 それでもここまで動けるのは、この男にも譲れないものがあるのだろう。
 手負いの獣だと思ってはいけない。
 レオニードはそう自分に言い聞かせながら、緊張感を保ち続けた。
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