黒き藥師と久遠の花【完】
    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 建国祭を二週間後に控えた頃。
 衣装に合った装飾品を見立てたいとエマたちに請われて、昼食後にみなもは仕立て屋へと向かった。

 扉を叩いて「お邪魔します」と言いながら中へ入ると、

「みなもさん、お待ちしていましたわ」

 作業の手を止め、満面の笑みでエマたちが迎えてくれた。

「早速ですけれど、衣装を着けさせてもらいますね。さあ、こちらへどうぞ」

 こちらが頷くよりも早く、針子たちがみなもの腕を引き、奥の部屋へと通される。

 真正面に置かれた、首のないマネキンがまとった衣装を見て、みなもは思わず息を呑んだ。

 金の糸で縫われた乳白色のドレス、色とりどりの宝石が散りばめられた飾り紐、透き通った布地で作られた淡い水色のショール――まだドレスの裾やショールの刺繍は途中だったが、見事としか言えない代物だった。

(……こ、これを俺が着るのか?)
 
 普通の女性なら、素敵な衣装が着られると胸を弾ませ、喜ぶのだろう。
 しかし男の格好に慣れてしまったせいか、嬉しさよりも、戸惑いのほうが大きい。

 自分のような人間が、本当にこれを着てもいいのか?
 上着を脱ぎ、肌を露出しない下着姿になりながら、みなもは密かに自問自答していた。

 エマや針子たちが、談笑しながらみなもへ衣装を着せていく。
 しゃらり、と布がこすれ合う音がすると、妙に耳がこそばゆくなる。

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