黒き藥師と久遠の花【完】
(相手が一人なら楽なんだけど……国宝を盗むなんて大仕事、一人で済むハズがない。複数を相手にするのは面倒だな)

 幸い、護身用の毒は手元にある。いつ襲われても対処できるよう、常に衣服や下着に忍ばせていることが習慣になっている。

 毒の刃を仕込んだ靴も履いているが、この格好では動きにくい上に、使えばドレスを破いてしまう。
 その分は心もとなかったが、使える毒は他にもある。自分やエマたちの身を守るためなら、『守り葉』の力を惜しみなく使いたかった。

 腹をくくって、みなもは事の成り行きを見守る。

 間もなく、エマたちの体が揺れ始め、目がとろんとしてきた。

「あら……どうしたのかしら? 体に、力が入らないわ」

 首を振ったり、壁に寄りかかったりしながら「私も」「私もだわ」と針子たちが戸惑いの声を出す。

 そして一人、また一人と床に崩れ落ち、深い眠りに落ちていった。

 みなももエマたちに合わせ、強い眠気に襲われたフリをして体を横たえる。
 普段よりも早い鼓動が、大きく体に響いてくる。

 薄目を開けて中の様子を伺っていると――。
 ――むっくりと針子の一人が起き上がり、足を忍ばせながら部屋を出ていくのが見えた。

 顔ははっきりと見えなかったが、体躯や髪を見れば誰なのか分かる。
 思わずみなもは息を飲み込んだ。
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