黒き藥師と久遠の花【完】
 みなもは己の背中に手を伸ばし、忍ばせてあった薬を取り出す。
 茶色の紙に包まれた薬を見た途端、クリスタは観念したように俯いた。

「四ヶ月ほど前だったわ。強盗団の一味に脅されたのよ。『オレたちに協力しなければ、仕立て屋の連中を全員殺す』って……ずっと見張られていたから、誰にも相談することができなかった」

 ぎゅう、とクリスタが拳を握り、小刻みに震える。
 殺されるかもしれないという恐怖とともに、苛立ちのような、怒りのような空気が漂ってきた。

「もし解毒剤のことでレオニードがここを離れなかったら、私の様子がおかしいって気づいてくれたかもしれない。でも、解毒薬の材料を探すためにここを離れていたし、戻ってきても忙しそうで、私のことなんて見えていなかった。……やっとバルディグとの戦いが終わったと思ったら、いきなり退役して貴方と一緒にここを去ってしまったのよ」

 次第にクリスタの声は小さくなり、涙声に変わっていく。

 ああ……だから彼女は、最初から俺を憎んでいたのか。
 ずっと怖い思いをし続けながら待っていたのに、俺がレオニードの隣を奪った上に、ここから離れていってしまったから。

 かろうじてあった一筋の光が途絶え、闇の中へ放り出されたようなもの……どうしようもできないと絶望したのだろう。

 自分が彼の隣にいなければ、助かったかもしれない。
 そう思うと、みなもの胸がズキンと痛む。

 けれどもレオニードだけは譲れない、と望む気持ちは変わらない。
 身勝手なものだと小さく息をついてから、みなもはクリスタへ微笑みかけた。
< 310 / 380 >

この作品をシェア

pagetop