黒き藥師と久遠の花【完】
 嫌な予感が脳裏をよぎり、みなもは慌てて視線をクリスタへ戻した。

 その背後には、いつの間にか外套の男が立っていた。
 彼女の首に腕を回して締め上げ、ナイフを突き付ける。

「クリスタさん!」

「動くな。この女を死なせたくなかったら、大人しく言う通りにしろ」

 毒が効かなかった? 他の二人には効いているのに。
 心の中で激しく困惑しながら、みなもは「分かった」と即答する。
 下手に動いてクリスタを傷つけられる訳にはいかなかった。

「まずはその奇妙な手袋を外して床へ置け」

 男が言い終わらない内に、みなもは言われた通りに動く。
 
「殊勝な心がけで何よりだ。じゃあ、しばらくそこを動くなよ」

 そう言うと彼はクリスタを連れて、隣の部屋へと消える。

 扉の向こうから数人の話し声が聞こえてくる。何を言っているのかは分からないが、大方、他の仲間に状況を伝えているのだろう。

 と、急に「私に触らないで!」とクリスタが声を張り上げた。

 ざわり。みなもの背筋を冷ややかな殺気が走る。だが、

「その女は大切な人質なんだ、もっと丁寧に扱え。少しでも傷つけてみろ……お前のその首、オレが叩き落としてやる」

 クリスタを連れ出した男が、鋭くも淡々とした声で仲間たちを牽制する。
 妙な威圧感に押され、仲間たちは「チッ、分かったよキリ」と引き下がった。
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