黒き藥師と久遠の花【完】
「お前、あんまり男だって感じがしないからな。案外とこういう趣向も悪くない」
指の温もりが伝わった瞬間、思い出したくもない記憶が脳裏を過る。
こちらの気持ちも意思も無視して、散々人の体を弄んだ男。
もう彼から離れて二ヶ月が経とうとしているが、つい昨日のことのようにあの男――ナウムの体温や息遣いが甦ってくる。
一瞬にして全身が怒りで熱くなる。
が、足元だけは冷え切り、足が床へ凍りついたように張り付き、動かすことができなかった。
(冷静になれ、自分。この男はナウムじゃない……もしそうだったら、今頃はもっと酷い悪戯をされている)
そう自分に言い聞かせて、みなもは焦りそうになる心を抑えていく。
少し頭が冷える頃には、衣装は体から離れ、耳飾りも外されていた。
「後はその立派な指輪だけか。ちょっと手を出せ――」
キリが言い終わるよりも先に、みなもは素早く指輪を抜き取り、彼の手の平に置く。
「おいおい、勝手に動くな」
「これは自分で外したほうが早いだろ。アンタが時間がないって言ってたから、協力しただけだ」
みなもが片眉を上げて肩をすくめてみせると、キリが残念そうなため息をついた。
「チッ……楽しみは後に取っておくとするか。おい、さっさと服を着替えろ。オレたちのアジトへ来てもらう」
……なんか不穏なことを言いやがったな、この男。
思わずみなもの目が細まり、嫌悪の色がにじむ。
しかし服に袖を通しながら、静かに口端を上げ、薄く笑みを浮かべた。
(そう言えるのも今の内だ。アジトにいる連中ごと、痛い目に合わせてやる)