黒き藥師と久遠の花【完】
 レオニードが扉を開けると、甘いような、少し埃っぽいような、土臭いような……色々と混じり合った匂いがする。
 薬草を扱う店ならではの独特な匂い。以前はこの匂いに顔をしかめていたが、今では慣れてしまい、むしろ心が落ち着いてしまう。

 店内には様々な薬草が瓶詰めされた物が、棚へきれいに陳列されている。
 ダットの町を訪れた際に立ち寄った店と比べると品数は少ない。その分、店内の手入れが行き届き、清潔感が漂っていた。

 カウンターに人の姿はなかったが、奥でゴソゴソと誰かが動く気配があった。
 しばらくして、奥から若い男が頭を掻きながら現れた。

「いらっしゃい……ん? なんだ、レオニードか」

 こちらの顔を見た途端、彼の顔から力が抜けた。

 この小柄でボサボサ頭の青年は顔見知りだった。
 自分とはさほど親しくはないが、彼はボリスの幼なじみで、子供の頃は何度か一緒に遊んだこともある。

 そんな彼が街一番の薬草店の主だと知ったのは、つい最近――作った薬を卸しにこの店へ来て、初めてわかったことだった。

 レオニードは青年の前に立つと、腰に下げていた皮袋から小瓶に入った粉薬をいくつか取り出し、カウンターの上に置いた。

「頼まれていた薬を持って来た。納めてくれ」

「おっ、ありがとさん。早い仕事で助かるよ」

 青年は笑みを浮かべると、その場へしゃがみ、カウンター下をまさぐり始める。
 チャリチャリと硬貨のこすれ合う音を鳴らしながら、彼は話を続ける。

「みんな建国祭になると、浮かれてハメを外すからな。だから祭りの次の日は、二日酔いの薬がよく売れるんだ」

 確かに建国祭になると、ここぞとばかりに酒をあおる人間が大勢出てくる。
 ……去年も、その前の年も、酔い潰れた同僚たちの介抱をしていたことを思い出し、レオニードは小さく息をついた。
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