黒き藥師と久遠の花【完】
 あの二人が盗みを働くなんて、まず有り得ない話だ。
 衣装や装飾品と一緒に、二人が賊に連れて行かれたとしか考えられない。

 しかし腑に落ちない点がある。
 みなもは常に自衛の毒を隠し持っている。それを使えば十分に対処できたはず。それができなかったとなれば……。
 
 レオニードはグッと奥歯を噛み締めた。

(クリスタを人質に取られて、抵抗できなかったのか)

 ずっと仲間を探すために生きてきた彼女が、ようやく穏やかな生活を手に入れたというのに。
 胸の内が痛くなるほどの怒りが、体を満たしていく。

 そして同時に、何か冷たく暗いものが足首に巻き付いてくる。
 もし、すでに口封じのために殺されていたら――。

 想像すらしたくなくて、レオニードは流れる思考を止め、ボリスへ話を振った。

「賊はどこへ行ったか、見当はついているのか?」

 ボリスは口を閉ざしたまま、首を横に振る。

「警備隊が店の周辺で聞き込みしているけれど、まだ有力な話はつかめていない」

 わずかにボリスが俯き、両拳を強く握った。

「二人とも僕らにとっては大切な人だ、ジッと待つなんてできない。レオニードもそうだろ?」

「ああ、当然だ」

 レオニードが間を置かずに即答すると、ボリスは鋭く強い眼差しをこちらに向け、素早く腰から剣を取り外す。
 今まで気づかなかったが、彼の腰には剣が二本あった。

「勝手に持ち出して悪いけれど、レオニードの剣も持ってきたよ」

 差し出された剣は、確かに家へ置いてきた愛用の剣だった。レオニードは有無を言わずに剣を手にする。

 そんな切羽詰まった様子の二人へ、ずっと成り行きを見ていた青年が、「なあ」と口を開いた。

< 319 / 380 >

この作品をシェア

pagetop