黒き藥師と久遠の花【完】
 思わず背筋に寒気が走り、みなもはキリから目を逸らす。
 何も言っていないのに、彼の喉からククッと人を小馬鹿にしたような笑いが聞こえてくるような気がした。


 しばらくして、キリたちは朽ちた木造の建物に身を潜らせる。
 クリスタが連れ込まれた後、みなもも中へ強引に押し込まれた。

 今にも崩れ落ちそうな外観とは裏腹に、中は意外と手入れが行き届いている。
 元は宿屋だったのだろうか、入り口にはカウンターが置かれ、左には二階への階段が、右には食堂だったと思しき部屋があった。
 点々と丸いテーブルと椅子が置かれた中、奥のほうで三人の男がカードゲームに興じていた。

 一人が仲間が戻ってきたことに気づいて顔を上げると、他の二人も遅れて手元から視線をこちらへ向ける。

「オイ、首尾はどうだったんだ?」

 尋ねられ、キリが「良いご身分だな」と肩をすくめてから、奪った物を入れた荷袋を軽く振った。

「今のところは予定通りだ。ゲイルのヤツは上か?」

「ああ。……ボスは気が短いんだ、早く見せに行ってくれ」

 聞き終わらない内にキリは階段へ足を向けつつ、みなもとクリスタを見た。
 
「お前たちにも来てもらうぞ。ついて来い」

 手に入れた獲物のお披露目といったところだろう。
 あまりいい気分はしないとみなもが思っていると、クリスタが青ざめた顔をこちらへ向けた。
 よく見ると肩や唇が小刻みに震えている。ここへ来る前よりも怯え方が酷くなっていた。
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