黒き藥師と久遠の花【完】
「おいおい、もっと丁寧に扱え。そんな調子じゃあ、いつまで経っても下っ端のまんまだぞ?」

 口調は変わらずだが、キリの空気が鋭くなる。瞬く間に彼の威圧感が辺りを支配した。
 誰もが息を呑んで押し黙る。これだけの人数がいるのに、雑音が消えていた。

 だからキリが離れる間際、声にならない声で囁いた言葉がみなもの耳に入ってきた。

『これで貸し一つだ。必ず返してもらうからな』

 キリは踵を返して階段を上がっていく。
 その背を睨みつけてから、みなもは口を固く閉ざして彼の後に続いた。

 ひとつ、ひとつ階段を上る度に、辺りは薄暗くなってくる。
 不本意だったが、かろうじて見えるキリの背中を頼りにしながら前へ進んでいく。

 と、キリが急に立ち止まり、コンコンッと軽くノックした。

「ゲイル、オレだ。入らせてもらうぞ」

 ガチャリと無遠慮にノブを回す音がした直後、目の前がわずかに明るくなる。

 開いた扉から見えたのは、重厚感のある大きな机に向かい、羽ペンを滑らせる男の姿だった。
 
 すぐに手を止め、男――ゲイルは顔を上げる。
 釣り上がった細い目に、くっきりと刻まれた目元と目下の皺。襟元まで伸びたクセの強い赤茶の髪にはコシがなく、毛先が縮れて首筋の所で遊んでいる。
 見たところ、歳は四十代の半ば。肩幅の広い、大きな男だった。

 ゲイルは光を一切受け付けないような、黒く濁った瞳をキリに向けた。
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