黒き藥師と久遠の花【完】
やめてくれ。そんなナウムが言いそうなことを言うな。
キリの戯言を聞いていると、自分がバルディグでの日々に戻ってしまったように感じてしまう。
こちらの意思など無視して、ただナウムが己の渇いた欲を潤すために、何度も体を弄ばれた日々に――。
(やっと忘れかけていたのに、思い出させてくれるな)
キリたちに気付かれないよう、みなもは奥歯を噛み締めて怒りを堪える。
今、怒り任せに反撃しても、クリスタを人質に取られてしまうだけ。しかも彼女が毒のとばっちりを受けてしまう可能性が高い。
とにかく感情任せに動いてしまわぬよう、冷静に機を見なければ。
みなもがそう思っていると、ゲイルは後ろのクリスタへ視線を定めた。
「クリスタ、協力してくれて感謝するぜ。お前の取り分はねぇが、オレの女になるなら宝石でも服でも、好きな物を買ってやる。ありがたい話だろ?」
ごくり、とクリスタが息を呑む音が聞こえた。
「い、嫌よ。お金も物もいらないから、私とみなもをここから解放して」
今にも消え入りそうな、小さく震える声。
きっと振り返れば、クリスタが青ざめた顔をしながら、毅然とした目でゲイルを睨んでいるだろう。そんなことが容易に想像できた。
ゲイルは立ち上がり、人差し指をチョイチョイと動かす。
グイッと背後の男に強く押され、クリスタがみなもの隣へ並ぶ形になった。
視界の端に入った彼女の細腕は後ろ手に回され、男の手がしっかと抱え込んでいた。
スウッ――ゲイルは目を細めて冷笑を浮かべると、手を伸ばしてクリスタの顎を掴む。
「このオレたちが、売れば金になる物を手放す訳ないだろ。お前はその顔だけでも十分に価値はあるが、まだ男を知らないっていう点でも高値は間違いない」
「……嫌っ、離して!」
声を詰まらせ、クリスタがゲイルの手から逃れようと小首を振ろうとする。
しかし力及ばず、離れるどころか、より強く指が柔らかな肌へ食い込んだ。