黒き藥師と久遠の花【完】
    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 足音を響かせながら、みなもとキリは無言で歩いていく。
 隣りの建物へと続く渡り廊下を進んでいくと、左右へ規則的に扉が並ぶ廊下へと出た。
 いくつか扉が開きっぱなしの部屋から、ほの暗い明かりが溢れている。

 前を通り過ぎる際、みなもは部屋の中を見やる。
 どの部屋も簡素なベッドしか置かれていない。見るからに湿気を帯びたシーツや布団が、やけに重そうだった。

 そして今にも透けそうな薄布をまとった若い女が、ベッドへ腰かけ、精気のない目で虚空を見つめていた。
 白く塗られた肌に、不自然なまでに鮮やかな赤い唇が浮いているように見える。

 みなもは小さく鼻を動かし、淀んだ空気を胸に入れた。

(ここは娼館か……懐かしいな、この空気)

 仲間の情報を集めていた時に、こういった類の所へ出入りしていた時期がある。
 娼婦たちの体は大切な金づる。病気にならないよう注意を払っているという経営者の話を聞き、常備薬を定期的に売り込んでいた。

 あの時は、自分に縁のない世界だと思っていたのに。
 ため息をつきたくなるのをグッとこらえ、みなもは更に顔を仮面のように固めていった。


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