黒き藥師と久遠の花【完】
 どうしてここでナウムの名前が出てくるんだ!?
 驚きで押し黙るみなもをよそに、キリは笑いを堪えて腹を震わせる。

『オレは情報屋なんだよ。つい最近までヴェリシアとバルディグが争ってたからな、ナウム様は金払いの良いお得意様だったぜ』

 ナウムの邸にいた時、各地に密偵を潜ませているという話を聞いたことがある。
 直接の部下だけでなく、金で現地の人間を雇って情報を集めていたらしい。

 以前にナウムが城下町で接触した際に、キリと会って話したのかもしれない。十分に考えられる話だった。

『詳しい話は教えてくれなかったが、アンタ、もっと色んな毒を使えるんだろ? どれだけ大人数でも、それを使えば楽勝なんじゃねぇの?』

 ……勝手に俺の手の内を人に言うな、ナウム。
 憎らしい顔が脳裏を過ぎり、みなもは頬を引きつらせる。

 と、不意に嫌なことを想像してしまった。

(まさか、コイツがナウムってことは……)

 声はキリのほうがざらついて低音だが、声などいくらでも変えることはできる。
 口調や話しぶり、言動がナウムと被っている。こちらに触れてくる手の大きさも、触り方も似ている気がした。
 それに、あの男が胡散臭そうな情報屋に、己の情報を漏らすとは思えない。
 
 しかし、ナウムはバルディグでは地位もあるし、多忙な人間だということは知っている。
 そんな人間がこんな胡散臭い連中と直接絡んで、目的を果たすなど有り得ない話だ。もし目的があるにしても、部下を送り込めば済む話だ。

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