黒き藥師と久遠の花【完】
 今まで見てきた限り、キリが仲間らしい人間と接触した気配はない。
 つまり連中と一緒に仕立て屋へ来る前から、予め手を打っていたのだろう。

 今回の件に関わるすべての人が、この男の手で踊らされている。
 こうなるようにキリが仕向けたのかと思うと、みなもの胸へ冷たく張り詰めたものが広がった。

 しかし、レオニードが保護してくれるなら、彼女の安全は間違いない。
 彼女がここにいなければ、心置きなく毒を使用できる。

 まずはクリスタを無事に外へ出すことを考えなければ……。
 少し思案してから、口元に笑みを浮かべた。

『キリ、今から俺をクリスタさんの所へ運んでくれ』

 こちらの提案に、キリが小さく唸った。

『今から? ……ゲイルにアンタを躾けると大見栄切っちまったからな。オレが怪しまれないよう、連中の目をうまく誤魔化せるならいいぜ』

『分かっている。今から俺はお前を拒むフリをするから、それに合わせてくれ』

 みなもは己の襟の裏に指を入れ、隠していた丸薬をひとつ取り出す。
 そして枕のほうへと身をよじり、キリの下から抜け出そうとした。

「……離せ! お前の物になんか、なってたまるか」

 詳しく説明せずとも察してくれたらしく、体の上からキリの重さが消え、動きやすくなる。
 すかさず上体を起こし、みなもはキリを突き飛ばした。

「この野郎……オレに逆らえば、クリスタがどうなるか分かってんのか?」

 粘っこい声を出して、キリが下卑た男を演じる。
 フリだと分かっていても、みなもの背筋に悪寒が走る。
 だが、これでいい。連中に盗み聞きされても怪しまれない。

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