黒き藥師と久遠の花【完】
「いや……鍵穴をこじ開けるよりも、壊した方が早い」

 レオニードは小さく扉を小突き、音を確かめる。
 さほど厚さのない扉なのだろう、コンコンと響いてくる音が軽い。

 一歩、二歩と後ろへ下がり、大きく深呼吸する。

 次の瞬間。
 腰を低く落として、レオニードは扉へ体当たりした。
 ドォンッという音の中に、ミシミシと軋む音が混じる。

 そして間を空けずに、再び体当たりする。
 一回目よりも更に大きな音が辺りに響いた。

 留め金が弾け飛び、扉が部屋に向かって倒れていく。
 中に人の姿はなかったが、机の上で煌々と光るランプが、ここに誰かいた事を教えてくれた。

 レオニードが先に足を踏み入れ、素早く中を見渡す。
 敵が近くにいない事を確かめてから、彼は目配せして、来ても大丈夫だと教えてくれた。

 念のために周囲を伺いつつ、みなもも部屋へ入っていく。
 床にはいくつか空の酒瓶が転がっており、壁際には大きな袋と鉄製や木製の箱が並んで置かれていた。

 みなもは一番近くにあった袋を、そっと触れてみる。
 チャリ、という音とともに伝わってくる、金属の硬さや重み――大量の硬貨が詰まっているようだった。

 一瞬、もう売り飛ばされたのかと思ったが、すぐに思い直す。
 
(あれだけ大きな宝石なんだ、これぐらいで済まないハズ。娼館の売り上げか、他の盗品を売り飛ばしたお金だろうな)

 他の袋も同じように、硬貨が詰まっているのだろう。
 一生かけて贅沢な生活を送っても、使い切れないほどの金額。
 それでもなお大金を求め続ける連中の欲深さに、嫌気がさしてくる。

 早く奪われた物を見つけようと、みなもは頭を上げて部屋を見渡す。
 その時、一番奥に置かれた箱の口から、白い布らしき物がはみ出しているのが見えた。

(もしかして、そこにあるのか?)

 念のためにみなもは辺りを見渡す。
 部屋の中に人が隠れている気配はない。
 レオニードも警戒はしているものの、何かに気づいた様子ではない。慎重に近くの箱や袋の中を確かめている。

 段々と体の感覚が鈍くなっている。さっさと終わらせて楽になりたい。
 みなもは力を振り絞って箱へ近づくと、膝をついて開けようと試みる。

 しかし蓋を上げようとしても、硬い口は微動だにしてくれなかった。
 
(鍵がかかっているのか……さすがにこれを叩き割ってもらう訳にはいかないな)

 クスリと小さく笑うと、みなもは針先を鍵穴へと差し込み、小刻みに動かす。
 カチャ、カチャ……カチリ。

 かすかな音と同時に、鍵が外れた手応えを感じる。
 ふと集中力が途切れて、ため息をつこうとした刹那――。
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