黒き藥師と久遠の花【完】
 階段を上り切る頃には、物々しい乱闘の音はなくなっていた。
 倒れ込んだ男たちの間にレオニードだけが立ち、彼らを見下ろしていた。

 人の気配はもうなくなったが、油断はできない。
 辺りを警戒しながら、みなもはゆっくりとレオニードに近づいていく。

 倒れている男とすれ違う度、「グッ……」と詰まった呻き声が聞こえてきた。
 ただでさえレオニードにやられて痛みが体中に響いているところに、毒も加わってくるのだ。さぞ苦しい思いをしていることだろう。

 まったく、自業自得だ。
 そう心で呟いて男たちを見やってから、みなもはレオニードの後ろへついた。

「もう毒にやられているから、逃げる心配はないよ。先へ進もう」

 レオニードは大きく頷き、上への階段を目指す。
 と、数歩進んでから、おもむろに口を開いた。

「みなも、ここまで来る間に連中を何人倒しているか、覚えているか?」

「俺が把握している範囲だと、七人かな? でも毒の残り香にやられた人もいるだろうから、もう少し人数は多いと思う」

「そうか……ここの連中の人数もキリから聞いている。俺たちが倒した分と合わせれば、あらかた倒し終えたのか」

 レオニードが長息を吐き、張り詰めていた緊張をほぐす。
 そして歩きながら振り向くと、みなもの頭をくしゃりと撫でた。

「あともう少しだけ耐えてくれ。早く終わらせて家へ帰ろう」

「……うん」

 くすぐったい感触が、ほんの少しだけ体を軽くしてくれる。
 みなもが小さく笑うと、レオニードも一瞬だけ表情を緩めた。

 が、すぐに表情は消え、鋭くなった目からは、見たものを凍らせてしまいそうな冷気が漂っていた。

 怒られている訳ではないのに、みなもの心がすくむ。
 しかし、微塵も甘さを感じさせない空気が頼もしくもあった。


 ようやく上の階に辿り着くと、目の前に硬く閉ざされた扉が出迎える。
 レオニードは慎重に扉へ近づくと、なるべく音を立てないようにノブを回す。

 押しても引いても、扉が開く気配はない。どうやら鍵がかっているようだった。

「ちょっと待ってて。こんな鍵ぐらい、すぐに外して開けられるから」

 みなもは襟の裏から毒の針を取り出し、扉に近づこうとする。
 スッ、とレオニードの手が前に現れ、動きを制止させられた。
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