黒き藥師と久遠の花【完】
「この調子じゃあ、戻るのはまだまだ先だな。……まあ、その方が街の女性陣は喜ぶだろうから、生涯その格好っていうのも良いかもな」
「俺が男のほうが、女性は喜ぶの? そんなに喜ばれるような容姿じゃないと思うんだけれど」
いまいちピンとこないみなもへ、浪司はおもむろに荷袋の中から一枚の折りたたまれた紙を取り出し、差し出した。
「二人とも、ちょっとそれを見てみろ」
みなもは首を傾げながら紙を手にすると、開いてレオニードと一緒に覗き込んだ。
見た瞬間、思わずみなもの目が点になる。
チラリと隣を見ると、レオニードはテーブルに肘をつけ、ため息混じりに頭を押さえていた。
ただ一人、浪司は二人の困惑する様子を、面白そうにニヤニヤと眺めていた。
「ち、ちょっと……こんなことやってるなんて聞いてないよ!」
みなもの声が動揺で裏返る。
何かの間違いではないかと紙面を凝視するが、書かれた内容は覆られなかった。
紙に書かれていたのは、劇の宣伝だった。
ヴェリシアの英雄と、異国の薬師の恋物語。明らかに自分たちを題材にした内容だ。
――設定はどちらも男性のままで。
「城の侍女から聞いた噂に刺激されて、脚本家が一気に台本を仕上げたらしい。今一番人気の劇で、もう何度も再演されているぞ」
城での噂が街に流れているのは知っていたが、まさかここまで大事になっているとは思わなかった。
浪司の説明を聞きながら、みなもは顔を引きつらせる。
ふとレオニードから、「だからアイツも知っていたのか」という呟きが聞こえてきた。
「レオニード、このこと知っていたの?」
「……いや。薬を卸しに行った時に店の主が、俺たちの関係を街の半数が知っていると言っていたんだ。……まさかこういう理由だったとは――」
取り返しのつかない事態に、二人してため息しか出てこなかった。
でも、どうにかできないなら開き直るしかない。
そうみなもが割り切ると、今度は笑いがこみ上げてきた。
「みんな物好きだね。まあ、二、三年もすれば飽きるだろうから、それまでの辛抱だよ」
ポン、と肩を軽く叩くと、レオニードが鈍い動きでこちらを向く。
「俺が男のほうが、女性は喜ぶの? そんなに喜ばれるような容姿じゃないと思うんだけれど」
いまいちピンとこないみなもへ、浪司はおもむろに荷袋の中から一枚の折りたたまれた紙を取り出し、差し出した。
「二人とも、ちょっとそれを見てみろ」
みなもは首を傾げながら紙を手にすると、開いてレオニードと一緒に覗き込んだ。
見た瞬間、思わずみなもの目が点になる。
チラリと隣を見ると、レオニードはテーブルに肘をつけ、ため息混じりに頭を押さえていた。
ただ一人、浪司は二人の困惑する様子を、面白そうにニヤニヤと眺めていた。
「ち、ちょっと……こんなことやってるなんて聞いてないよ!」
みなもの声が動揺で裏返る。
何かの間違いではないかと紙面を凝視するが、書かれた内容は覆られなかった。
紙に書かれていたのは、劇の宣伝だった。
ヴェリシアの英雄と、異国の薬師の恋物語。明らかに自分たちを題材にした内容だ。
――設定はどちらも男性のままで。
「城の侍女から聞いた噂に刺激されて、脚本家が一気に台本を仕上げたらしい。今一番人気の劇で、もう何度も再演されているぞ」
城での噂が街に流れているのは知っていたが、まさかここまで大事になっているとは思わなかった。
浪司の説明を聞きながら、みなもは顔を引きつらせる。
ふとレオニードから、「だからアイツも知っていたのか」という呟きが聞こえてきた。
「レオニード、このこと知っていたの?」
「……いや。薬を卸しに行った時に店の主が、俺たちの関係を街の半数が知っていると言っていたんだ。……まさかこういう理由だったとは――」
取り返しのつかない事態に、二人してため息しか出てこなかった。
でも、どうにかできないなら開き直るしかない。
そうみなもが割り切ると、今度は笑いがこみ上げてきた。
「みんな物好きだね。まあ、二、三年もすれば飽きるだろうから、それまでの辛抱だよ」
ポン、と肩を軽く叩くと、レオニードが鈍い動きでこちらを向く。