夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
「はあー?」


首を傾げて見つめ合うあたしと母の前で、長谷部先生は端正な顔立ちを無防備に崩した。


「うちの息子も南高なんだよ。今、一年生でね」


その優しげな笑顔を、清潔感たっぷりの白衣が際立たせていた。


「えーっ、まじ? あたしも! 一年だよ」


「えっ、いや。びっくりだなあ」


これも何かの縁かな、そう言って笑った長谷部先生に、なんとも言えない親近感を抱いたのはなぜだろう。


ここは病院で、あたしはたった今、衝撃的な現実を叩き付けられた人間だってのに。


やたらと親近感漂う空気があたしと長谷部先生の空間に生まれた瞬間だった。


「先生、ハセベ、だよね」


ハセベ、なんてそんな名字のやついたっけ?


少なくとも、1Bにはいないな。


「へえ。今度探してみる!」


「ひねくれ者で、ろくでもないやつだから気を付けてください」


と長谷部先生がはにかんだ。


全然、不安じゃなかった。


あたしはたぶん、頭の中にいる悪魔の怖さをまだ自覚していない、愚か者だった。












帰り道、近所の公園にさしかかった時、晴れている冬の青空から雪が降り始めた。



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