夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
大好きな母があたしのせいで泣いているのに。


掛ける言葉を探しても、見つけることすらできなかった。


ごめん、母。


あたし、どうすればいいのか……分からん。


あたしはあたしで、いっぱいいっぱいだった。


脳腫瘍です、と言われて。


覚悟はしていたつもりだったのに、その衝撃は思いの外大きくて。


今更、今になって、母の涙を見て、衝撃を受けていた。


さすがに、堪えた。


確かに、良性なのかもしれない。


でも、今一度、詳しい検査をしてみなければ正確な事は分からない。


あたしは、一瞬でも大好きな補欠のことを忘れてしまうほど、堪えていた。


その衝撃を全身で受け止められるほど、16歳のあたしはまだ大人じゃなかった。


詳しい検査をして、もし、悪性でした、なんて言われてみろ。


どうすりゃいいんだ。


母は、今以上にもっと泣いてしまうだろう。


呆然と立ち尽くすあたしの手を掴みながら、母が苦しそうに声を絞り出した。


「お前は、あたしとたっちゃんの希望だった。あんたは、特別な子だよ、翠」


希望。


特別。


「もちろん、大反対されたさ! 高校生が、って。後ろ指さされた。でも」


つい、後ずさりしそうになった。


「陸上辞めて、学校辞めて、人生全てを投げ出したとしても、この子は絶対産むって」


「……」


「だって、どうしてもお前に会いたくて。翠……」


顔を上げた母は涙で濡れた天使みたいに、優しい顔をしていた。



< 332 / 653 >

この作品をシェア

pagetop